最近はルナンのことが心配でたまらないんだ。
なぜかというと、会った当初はいつも笑っているような明るい奴だったからな。
そのときあいつはアネートへクレスフィールドを助けてもらうための手紙を持っていく途中だったな。
あのときは平和だったときのクレスフィールドでの日常のことをうれしそうに語ってた。
自分のこと、あいつの父親のこと、そして気のいい町の人たちのこと…。
あいつの話を聞いているときにはクレイシヴに対する仇打ちの事などいつのまにか忘れていた。
だけど、クレイシヴがあいつに千年前の生命兵器だと言ったときからあいつは変わったんだろう。
--- これは彼らがエターナルを率いていたクレイシヴと呼ばれる男をある者たちが止めようと
フィルガルト大陸を飛び回っていた頃の話。---
「…、ここを通りたければ俺を倒してから行くんだな。」
「フォールン、なんであなたがクレイシヴに従うの!」
ルナンは叫んだ、敵であれ裏切ったとしてもフォールンがクレスフィールドにいたこと、
そしてエドやラーフィアが辞めたのにエターナルの幹部として働きつづける理由が知りたかった。
「俺は強くなるためだけにいまはここにいる。エターナルなど俺にはどうでもいいことだ。
あのころはアズグレイが俺より強かった…、それが理由でアズグレイの下にいただけの話。
俺があいつを倒すつもりだったのに…な。
今はアズグレイを殺したクレイシヴが俺が倒すべき目標。そのためにここにいる。
お前らはここで俺の前に倒れ伏すのだ。そうしたら次はあいつを倒す!」
まるで勝利しか頭の中にないような顔でルナンたちを見る。そのフォールンの前で声を出すものが一人。
「ルナン、下がっていろ!」
ディザだった。
「ふ、ルナンはいざしらず、お前ごときが俺に勝てると思っているのか?」
「うるせぇ、すぐにその減らず口を叩けなくしてやる!」
ディザはフォールンの前まで走った。二人の戦士が対峙している。
ルナンは躊躇したがサヴィアーやナックの援護で苦戦しながらもフォールンを圧倒。
そしてフォールンの剣が折れ、フォールンの首元にディザの剣が構えられる。
「勝負あったな」
「お前のせいでルナンはこんなにも苦しんだんだ!覚悟してもらおう。」
「ディザ、もういいわ。もうフォールンは戦えないはずよ」
「何を言ってるんだルナン!?こいつのせいでクレスフィールドの人たちは…!」
ディザはすぐさま疑問の言葉を投げかけるが、ルナンは通路の向こうにある部屋に向かいながら…。
「…。だけどそのおかげで、私はディザやサヴィアー、ナックや他のみんなに会えたんじゃない。」
そういうとすぐにこの部屋を去っていった。
「ルナンに免じて許してやる、おまえの敗因は勝利にだけ執着したことだったな…。」
「ぐっ…。」
「本当に良かったのか?あいつを見逃しちまって…。」
「もう済んだことでしょ?それよりもクレイシヴを追わないといけないわ。」
「…まぁ、確かにそうだけどな。」
(俺はあいつが許せなかった。会ったときからあいつのせいでルナンは苦労してたからな。
確かにルナンが言いたいことも分かる。だけど、やはりあいつだけは許せなかった。クレイシヴと同じぐらい…。)
そして、降神祭の日。クレスフィールドの人たちを解放し、俺たちは神殿へ急いだ。
そこには沢山のエターナル兵がいたが、いくら来ようと負ける気はしなかった。
そこに今まで通ってきた町や村の人たちが駆けつけてくれてあとはクレイシヴの元へ行くだけだった。
そして…、
「何とか間に合ったね。」
とナックの第一感想。
「クレイシヴ!!!」
ルナンは叫んだ、するとクレイシヴはいきなり。
「予言の通り我らの前に神は現われた。あの少女こそが神クレスティーユだ!」
今更そんなことをいうクレイシヴに苛立ってくる。いつもあいつの考えることは分からない…。
サヴィアーはなんとなく知ってそうだがな、まったく話そうともしない。
そうこうしていると、そこにいたエターナルの人たちからなにか見たことがあるようなモノが出てきて
どんどん人が倒れていく。たしかあれは…、ジーダイの洞窟で見たことがあった…。
精神体だ!生きている人たちの精神をあのシルバーリングが吸い込んでいる!
「なんて事を…!」
俺たちの中で誰も動くことは出来なかった…。
ほんの数秒で俺たち以外でそこにいたエターナル信者は床に倒れていた。
「遅かったみたいね。」
遅れてユミたちが姿をあらわす。
「シルバーリングは完成した…。」
とクレイシヴがいい、続けて語りだす。
「ただの純粋な銀だけで生命兵器を操ることが出来るとでも思ったのか?
銀は精神体を集めるために必要なだけ…、今ここに多くの精神が宿った。」
「みんな逃げて!急いで!」
ルナンがいきなり大声を上げて言った。
「何を言ってるんだ!ルナン!」
「あれを使うのは一瞬よ!早くしないと私がみんなを!」
「いくぞ、クレスティーユ。」
「…、はい。」
予想していた最悪のパターンが実現された…。ルナンがシルバーリングに操られた。
「おい、ルナン!」
「どいて、ディザ。」
「操られてるって分かってるんだろ!なんで奴の言いなりに!」
無理だとは知っているが、何とかなるはずだ!何か手が…。
「シルバーリングで命令されればたとえ操られてるって理解していても抵抗は出来ない。
そこをどいてディザ!でないと私はディザを殺してしまうかもしれない!」
ダメだ!ルナンをクレイシヴの操り人形にされてたまるか!
「そこをどきなさい、ディザ。本当にルナンに殺されるわよ。」
「じゃあルナンが連れて行かれるのを黙ってみてろって言うのか!
じゃあその前にクレイシヴをぶっ倒しちまえば!」
「無駄よ、そんなことをしたらクレイシヴはルナンを使ってあんたを倒そうとするわ。
いまのクレイシヴに立ち向かうことは出来ないわ」
ユミがはっきりと断言する。その声に確かな絶望が聞き取れる…。
「先生!先生は何処へ行くつもりなんですか!」
「…、黒き…絶望の集まる場所へ」
そう言うとクレイシヴはその場所から去っていった。
黒き絶望…?どこにあるっていうんだそんな場所…。黒き…。
「!!オイルレイク!?」
「確かにそうね、あそこならイリーディアがあってもおかしくはないわ。」
「さっさと行くぞ!」
そういって俺はすぐにその場を一番に去ってグラウンドシップに向かった。
早くルナンを助けに行かないといけない。そんな思いが頭の中をよぎった。
果たしてオイルレイクで…、クレイシヴはいた。ルナンと共に…。
「クレイシヴ!!!」
ルナンの周りには膨大な量の魔力が集まっている。魔法が苦手な俺でも分かるほどの…。
そして「やれ、クレスティーユ」というクレイシヴの声にあわせてルナンの周りに集まっていた
魔力が解き放たれほんの一瞬で、あの大きなオイルレイクの油が消し飛んだ。
そしてクレイシヴはルナンと共にオイルレイクの跡地に入っていこうとしていたが、
俺はその前に立ちはだかった。
「どけ」
「お兄ちゃん!危険だよ!」
「ディザさん!ダメです!やられてしまいますよ!」
仲間の静止の言葉が耳に入った。だが俺はその場を動く気にはならなかった。
なぜなら…、ここでなんとかしないともうルナンと会えなくなりそうな気がしたから…。
「もう黙ってみてるなんてことは出来ない!俺はルナンを取り返すんだ!
ルナンを連れてここから先へは行かせないぞ!」
「そうか、ならば…。」
そう言うとクレイシヴはシルバーリングを高く掲げてルナンを操ろうとした。
その瞬間!
バァーン!!
銃声が中央山脈全体に響いた気がした。
そのとき、クレイシヴのシルバーリングを持った右手が空高く舞い上がった。
弾の来た方向を見るとそこにはユミがいた…。
そして、クレイシヴの腕は崖下に落下し、負傷したクレイシヴはイリーディアへ向かっていった。
だがそんなことよりも先にルナンのことが頭に入った。
誰よりも早くルナンの元へ駆け寄り、倒れる寸前だったルナンを支えた。
「ルナン!しっかりしろ!ルナン!!!」
…どれだけの時が経っただろう。
今はルナンは気を失い、ナックが宿で看病をしている。サヴィアーはイリーディアの下見に行き
無理をしたユミはグラウンドシップへ戻り、おっさんとシンディはおれに付き添って下山した。
俺は、オイルレイクだった岸で今は空を見ている。
思い返せばここ数日の間に色々あった。
クレイシヴを追跡しつづけ、かなり接近してきたのはツーリアのあたりからだっただろうか…。
アズグレイを失って意気消沈しているラーフィアやエドを倒し、シルバーリングを取りにジーダイの
洞窟に入り、そこからルナンとクレスティーユ、そしてクレイシヴの関係が詳しくなってきた。
バイツ山では1000年前クレスティーユに殺された沢山の人々の精神体が集まり、ユミの故郷サンピアスで
クレイシヴがユミの父親であることがわかり、その実の娘のユミを攻撃するまでに至った事実…。
そしてシルバーリングに執着したクレイシヴはエターナルという大陸規模な組織を利用し、
シルバーリングを完成させた。
ここまでのクレイシヴの行動に大量の人々が苦しみ傷ついた…。
今は俺だけの復讐どころではないのではないだろうか…、もしここでクレイシヴを止めないと
それ以上のなにかがこの大陸中に起こってしまうのではないだろうか…。
今の俺は何の為にクレイシヴと戦ってるのだろうか…。
両親の仇討ち?それともクレイシヴに殺された人たちのため?
今は…、そのどちらでもない。
自分のため…、というよりルナンのために戦ってるのかもしれない。
いつの間にこうなったんだろう、昔はクレイシヴに対する復讐しか頭になかったはずなのに…。
いまはルナンを守ってやらなくちゃならない気持ちでいっぱいだ。
一番ルナンと付き合いの長い俺がそばにいて支えてなくちゃいけないからだろうか…。
いや、それは単なる建前でしかないのかもしれない。
………。あまり考えるのは性に合わないな…。やめよう。
「ディザ?こんなところにいたの?」
いきなり後ろから声をかけられた。
「ああ、なんだルナンか…。もう大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。」
…。
「…あんまり気にするなよ」
とりあえず適当になんか言ってみる。
「うん、だけど…、」
「私はここまで頑張ってみたけど運命を変えることは出来なかったわ…。
結局クレイシヴの思い描いたとおりに事が運んでしまった。」
「それは今までが偶然そうなっただけだ、気にすることじゃないだろ。」
「そして私がイリーディアに入れるようにしてしまった。
それは私が生命兵器として生まれ、その力を利用されてオイルレイクが消されたと言う事実は
変わらないわ。私がクレイシヴのイリーディア発見の手助けをしてしまったのよ!
私は1000年前に生命兵器として生まれ、その力を使うために生まれてしまった。」
「生まれた理由なんて関係ないんだよ!お前は生命兵器として生まれたからって、それでいいのか!?」
つい、怒鳴ってしまった。
「私はそんなのいやだ。」
「ならそれでいいじゃないか、1000年前と今は違うんだ。ルナンはルナンだ。クレスティーユなんかじゃない。」
「………。そうね、ありがとうディザ。ここ最近の私、ディザに励まされてばっかりね。」
そんなことを気にしてたのかお前は…?
「馬鹿野郎、そんなの気にすることなんかない。俺だってルナンのおかげでこうして今ここにいるんだ。
前にお前が言った通りお前がいなきゃみんな知り合うことなんてなかったんだからな。」
「そうだったわね。
でも、何でディザは一緒にいるの?まだクレイシヴに復讐しようと思っているわけ?」
まさか聞かれるとは思わなかったからちょっとびっくりしたが、少しして答える。
「そうだな…、クレイシヴは許すことはできないが、クレイシヴはもう俺一人の復讐の対象ではないからな。
俺はこう思うんだ。『もうこれ以上悲しい思いを他の人たちにさせないようにクレイシヴを止めよう!』ってな。」
「ディザ、初めて会ったときと変わったわね。」
「そうか?だったらルナンのおかげだな。」
「私の?」
「ルナンと会うことが出来なかったら俺は今でも復讐のためにクレイシヴを追いかけてた。
そして復讐に生きてたらフォールンと同じようになってしまったんじゃなかったかとも思う。
だから、俺はルナンにとても感謝してる。
だからこそ俺は、あいつを倒すまでお前のそばにいてやろうって、そう思ったんだ。
お前を支えてやれるのは、このなかで一番付き合いの長い俺しかいないからな。
そんなわけで、これからは何が起きても俺が守ってやる。絶対にな!」
「ありがとう、ディザ。本当に嬉しいわ。」
「とにかくクレイシヴの計画を止めるまではあきらめちゃダメだ。
一生懸命頑張ればいくらでも運命なんて変えることが出来るんだからな。
俺たちで証明してやろう。運命は決められてるんじゃなく決めるものだってな!」
「そうね、まだクレイシヴを止めることは出来るもの。
絶対にクレイシヴを止めようね、ディザ。」
「ああ、そうだな」
---あとがき---
なんかとっても前ふりが長くなってよくわかんなくなってます。
とにかくルナンとの関係をディザメインで描いてます。
もうちょっとCresのメインの話を削るべきだったと思います。
ですが、フォールン戦の「そのおかげで、私はディザやサヴィアー、ナックや他のみんなに会えたんじゃない。」
と、ルナンがシルバーリングに操られたところはどうしても使いたく、イリーディア突入寸前のイベントで
初の恋愛要素にチャレンジしてみましたが、いかがでしょう?