「お兄ちゃんもきっとルナンのこと分かってるよ。ただ感情的になっちゃっただけだよ。」

 

千年前のクレイシヴとは違う…。

確かにディザの言うこともよく分かる。

けど…

 

千年という時間がすぎてクレイシヴになにがあったんだろう。

 

あんなに私に優しかったあのクレイシヴがどうして今の冷徹な性格になったのか…。

クレスティーユであった過去のクレイシヴからは考えられないことであった。

どんなつらいときでも、苦しいときでもたった一人のいたわるように接していた人。

また父親のようにやさしい笑顔を向けてくれた人。

そしていつもわたしのことを研究よりも優先して気を使っていてくれた人。

 

そんなイリーディアにいたころの唯一の心の理解者であったクレイシヴが

ディザの両親すらも手にかけてしまうようになったのはいつからなのか…。

 

 

千年前………

 

 

「CR−Aクレイシヴ、今日からお前の部屋にこいつが入ることになった。これからお前が

こいつの世話係だ。」

 

「まさか新しく作られた生命兵器とはこの少女のことか!?」

 

「ああ、見た目は子供だがお前よりも優秀な生命兵器だ。皇帝陛下のお気に入りだからな、

しっかりたのむぞ。」

 

千年前のイリーディアのこのとき、その少女はこの世に生を受けた。

少女として作られたときから大人と同じような生活をさせられ、毎日の日課が戦闘訓練。

普通の子供としての生活とはかけ離れていた。

だがその少女が戦いを望まなくてもその生活がその少女にとってあたりまえのことだった。

 

「私の名はCR−Aクレイシヴだ、クレイシヴと呼んでくれればそれでいい。

そして今日からここがお前の生活する場所だ。」

 

そんな戦うことしか知らない少女に唯一親身に接してくれたのがクレイシヴだった。

生命兵器でありながらイリーディアの研究員として働いていたクレイシヴは、

生命兵器の失敗作として研究室においてもらっていた。

クレイシヴにとっても生命兵器である少女は気の合う唯一の者だったかもしれない。

その少女もクレイシヴもお互いに助けあっていたのだ。

 

そして毎日のように行われる戦闘訓練では

「今日もいつもどおりにやれ。」

「…はい」

命令されたらそのとおりにしたくなくてもしたくなる恐ろしき道具であるシルバーリングに少女は操られるままだった。

そしてドラゴンが何十匹相手だろうと、ものともしない少女はイリーディアのなかで働いている人達に恐れられていた。見た目は普通の少女なのにかかわらず…。

 

ある日その少女は皇帝から名前を授かった。

「今日の訓練も上々だ。皇帝がお前に名前を与えるそうだ。今日からお前はクレスティーユ、戦う者という意味の名前だ。」

戦う者と生まれたときから運命が決まっていた。

その少女にとって戦いは好きではなくても戦うこと以外での生活は考えられない。

生まれたときから戦うことだけを心の奥底に根付かされていたから。

 

「今日の訓練はどうだったんだ?」

「クレイシヴ、わたし皇帝からクレスティーユって名前をもらった。」

「そうか皇帝から新しい名前をもらったのか、では今日から私もクレスティーユと呼ぼう。」

いつでもクレイシヴはクレスティーユのことを真っ先に心配してくれていた。

クレスティーユが一番落ち着く場所はいつでもここだった。

 

「クレスティーユ、今日は実践戦闘だ。いつもの訓練どおりにやればいい。」

「待て!今回はそんなに大きな侵略じゃないと聞いた。クレスティーユなど必要ないだろう?」

「戦うためにこいつがいるんだ。それとも同類の憐れみか?ばかばかしい、いくぞクレスティーユ。」

「………はい」

命令されたらはいとしかいえない自分が少女であったクレスティーユには情けなく思うときもあっただろう。

クレスティーユが戦闘に連れて行かれるときは決まってクレイシヴは反論をしたが、ほとんど聞き入れてもらえない。

そして戦闘が終わって帰ってくると、「大丈夫か?怪我は無かったか」といつでも心配していてくれた。

 

 

そして最後の戦闘の日。

「今日はいままでにない大規模な戦闘になりそうだが、いつもどおりにやればいい。」

「待て!今回はかなりの規模の戦闘だ。クレスティーユには危険すぎる!」

「こんなときのために生命兵器がいるんだ。さあ行くぞクレスティーユ!」

「………はい」

 

そして…

「CR−Eクレスティーユは無事だ。他の者たちは!」

「私は無事です。他の者たちは敵も味方もみんな残っていません。」

 

それから皇帝は今回の戦闘の結果を聞いて驚きに言葉も出なかった。

 

「何、どういうことだ!クレスティーユを冬眠装置に入れるだと!なにを考えてるんだ皇帝は。

皇帝の下に行って考え直してもらってくる!」

「無駄だ、俺もいくらなんでもこれだけはおかしいと思って反論したさ。だが考えは変わらなかった。先日の戦闘で皇帝はクレスティーユをこれ以上使うのは危険だと判断したんだろう。

すでにアージェ計画は始まっている。俺たちはもう用なしなんだよ…クレイシヴ。」

「仕方ない…。私もクレスティーユと共に冬眠装置に入ろう。」

「何!?正気かクレイシヴ?」

「一人だけ冬眠装置に入れるわけにはいかない。それでいいかクレスティーユよ。」

「私、冬眠装置に入りたくない。」

「大丈夫だ、クレスティーユ。千年という永い眠りが待っているだけだ。さあ、一緒に入ろう。」

「本当にいいの?クレイシヴ。」

「もう決めたことだ、いまさら変える気はない。」

 

そして彼らにいつ覚めるとも分からない永き眠りのときが訪れた。

 

 

 

そして千年という時間が過ぎて私が冬眠装置から目覚めるときにクレイシヴの姿はなかった。

なぜ彼は私を起こさずに去っていたの?

それは私が新しい生活を送れるよう気を使ってくれたから?

それとも私には見せなかった別の一面があったから?

今の私にはクレイシヴのことは分からないけど、いつか分かるときが来る。

そう信じて今は進むという選択をするしかなかった。

 

 

 

---あとがき---

久しぶりにそれなりの長さの文章が書けた気がしました。

なんか自分の創作部分が少ない気がするが実際の台詞と食い違うところがありますけど

そこは目をつぶってください。

メモリーオーブによって引き出された過去の忌わしき記憶は千年前に栄華を誇ったイリーディア

での大戦と生命兵器の切っても切れない関係が考えられます。

そのなかで作られた少女の生命兵器の心に秘めた想いって感動的なストーリーだと思いませんか?これを題材に想像を働かせる価値はありそうですね。