過ちの贖罪
長い、長い道のりを経て、辿り着いた。
雷鳴が轟き、竜の雄叫びが聞こえる。
彼らはその悪天候の中、その神殿の前に立っていた。
その中でもひときわ目立つ大きな竜、彼の名はグヴァリフという。
グヴァリフ「この場所は懐かしいな……」
文字通り空まで貫く高い階段を上り、青年、レーベンは息が切れていたが、
その武竜は疲れた様子を見せていない。
レーベン「……?」
レーベンは言葉の意味をしばし考え込んだ。
それを仲間のジャネットが説明する。
ジャネット「ここはね、兄…グヴァリフがまかされていた場所なの。」
彼女は意外に博識で多くのことを知っている。
彼女はグヴァリフを兄と言ってはいるけれど、見た目はまったく違う。
とはいえ彼女も人の姿を取っているだけなのをレーベンは彼女本人から聞いたけれども。
ジャネット「この場所の名は天帝の高御鞍(たかみくら)
天と地と海をまかされた世界存在の居住していた場所。」
世界存在の話は彼にもこの旅を進めるうちに何度か聞いたことがある。
世界存在はこの世界をつくりしもの。
なれど神とは違い、人とも違う、それが世界存在。
レーベン自身なんとなく感づいてはいたのだが、彼らは世界存在そのものだということに
あらためて確信が得られたようだ。
世界存在の話自体はこの世界に住んでいれば知っているのが道理だが、レーベンは特別だ。
彼にはこの世界の知識がほとんどないのだから。
改めて今いる場所を見渡してみると、十分に壮大な建物ではあるが、ところどころに
崩壊が起きたような跡がある。
レーベン「なぁ、グヴァリフ。この場所はいったい…?」
ジャネットは黙っている。
彼女は博識だ。ゆえに此処でなにがおきたのかも既に知りえている。
グヴァリフ「ここはわしの寝所であった。
わしはここで第一世界存在にまかされた三界を見守っているはずだった。」
武竜は昔を思い出すようにとつとつと語り始めた。
グヴァリフ「なにが事の発端であったかは分からぬ。
それは運命だったのかもしれないな。」
グヴァリフ「創世の七日間が終わり、六人の世界存在に役目が課された。
皆、一生懸命に任された仕事をこなしていた。
ある日、10000のつよきものをまかされた我らの長兄ディースは第一世界存在にこう言ったそうだ。
『私はあなたの持つ100000の力を受け取る権利がある。なぜならば私がどの兄弟達よりも良く働き、つくりだしているからだ』、と。
それを聞いた第一世界存在は、ディースを追放した。
それからしばらく時が流れ、この世界を残して第一世界存在はこの世界を去った。」
グヴァリフ「そのあとの事だ。
兄のディースはわしのところにやってきた。
最初、わしはディースをどうするか悩んだ。
しかし、兄である以上無碍にはできず、わしはディースを客としてもてなしたのだ。
賢くない選択であると言う事は自分でも気づいていた。」
グヴァリフ「しかし、そのときにはもう手遅れであった。
追放されたディースがなにも考えずにわしのところにやってくるはずは無かったのだ。
わしは1000年の眠りにつかされ、ディースはわしの部下達を支配した。
そして、必然的にわしのまかされていた天と地と海をもディースにより支配され世界は混沌に巻き込まれた。
これが世に言う暗黒時代の始まりだ。」
グヴァリフ「…思えば人間たちには悪い事をした。わしの判断の過ちによって世界が危機に瀕したのじゃからな。」
レーベンは真剣に彼の話を受け止めるように彼の話を聞き入っていた。
ジャネットも同じだ。
そしてグヴァリフは話を続ける。
グヴァリフ「結局、ディースは人間の三英雄によって万魔殿の奥深くに封じられた。
だが、わしの寝所はこのような姿になり、わしの元配下は全てディースの部下となっておる。
今はおそらく封印されたディースはここを治める事は出来ぬ。
ゆえにディースに惑わされたわしの配下がここを治めていよう。」
グヴァリフ「わしが目覚めたときにはもうすべてのことが終わった後であった。
わしは父にまかされたこの三界を統べることができなくなっていたのだ。
わしの体は監禁され、もはや外に出る事もかなわぬ。
そんなわしに唯一できた事は、彼に託された鍵を守り続ける事のみ。
全てを失うわけにはどうしてもならなかった。
全てを失えば存在理由を失ったも同然だ。
ただひとつの鍵しか守れないなど、竜帝の名も地に堕ちたものだ…。」
グヴァリフはそういって、目をつむる。
レーベン「……俺にはどんな状況だったかはわからないけど──」
そうレーベンは口にした。
レーベン「あんたは立派に仕事をまっとうとしようとしたんだろ?
少なくとも、王座を奪われるまではしっかりとまかされた仕事をこなしていたじゃないか。
それに…、あんたは王座を追われようと、世界が崩壊の危機に瀕していようとかわらず
王たる威厳をもっていると、俺は思ってる。
あんたはまだ失ったものを取り返すことができるはずだ。」
それにジャネットが付け加える。
ジャネット「ええ。私達兄弟もそんなあなたが尊敬できる存在だって思ってる。
なによりも一番多くのことを心配しているあなたはいつまでも竜の帝よ。
多くのことを気にかけることができるのは並大抵のことではないわ。」
レーベン「まだ、間に合うんじゃないのか?
過ちなんかあとからいくらでも取り返せば良いじゃないか。」
グヴァリフはしばしその言葉を聞き入り、決意のまなざしを浮かべた。
グヴァリフ「そうだな、いくら王座を追われようともわしは、三界を統べる竜帝である。
それは偽りも無い真実。父、第一世界存在にまかされた仕事をまっとうとせねばならぬ。」
手に持った槍を掴みなおし、グヴァリフは一歩、足を進めた。
そして彼は、ひとつの結論を得た。
力を得ると言う事は我らにとって毒である。
それを知っていたから父はディースに力を渡す事はなかったのであろう。
兄、ディースも力に魅せられることが無ければ、また違った物語を紡いだのだろうが…。
世界の平衡のためにあえて悪役を買った長兄は偉大であったのかもしれぬ。
だが、長い混沌などは世界には必要は無い。
三界を任されたものの身として、この混沌のままに世界を崩壊などさせるわけにはいかないのだ。
グヴァリフ「共に偽りの天帝を倒そう。レーベン、ジャネット」
そして彼らは鳴り止まぬ雷鳴の下、天帝の寝所に入っていった。
--- あとがき ---
初のイストワールものです。
イストワールには固定したシナリオがないために、基本はゲーム内に存在する書物と館における彼らの会話のみを頼りに構成。
グヴァリフはイストワールを始めた頃にはまったく使わないキャラだった。
なぜなら装備がかなり限られる上、ブレスも1発が限界という理由で強敵を相手にしづらいため。
しかし最近はなかなか使えるキャラになりました。MP半減+EOF装備のブレスはやばい…。
まあ、キャラとしては好きなキャラです。あの渋さと威厳のすごさが。マスターズプライドも伊達じゃない!
しかし、彼が第一世界存在を父と呼ぶのは非常に違和感を感じます。
というか世界存在たちの見た目と生まれた順番のギャップが激しい…。
ぜったいグヴァリフの方がディースより上だって、いやカルナも。第一世界存在見た目若過ぎます。ゲームにのみ許された特権なのか…。